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『ドキュメント ゼロ金利 ー日銀vs政府 なぜ対立するのかー』 [書籍:『』「」付記]

ドキュメント ゼロ金利 ー日銀vs政府 なぜ対立するのかー

ドキュメント ゼロ金利 ー日銀vs政府 なぜ対立するのかー

  • 作者: 軽部 謙介
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2004/02/28
  • メディア: 単行本

 

今回は経済、金融に関する本です。「経済とか、金融とかよくわからんわ」という方も多いかもしれませんが、大丈夫です。僕も難しい金融の話は分かりません。(おい)

大丈夫、というのは、この本は「ゼロ金利」とは何か、などの経済学的な話を解説するための本ではないからです。「ドキュメント」とあるように、この本は、日銀がゼロ金利政策を現実の課題としてどのように検討したのか、という政策過程を記述したものであり、ゼロ金利政策の実施を通じて、政府、国会、そして日銀が「日銀の独立性」となにか、ということを読者に問いかけています。

「中央銀行の独立性」という言葉を聴いたことのある人は結構いるのかもしれません。僕はまだ理論的根拠まで知りませんが、各国の中央銀行で重視されている概念です。

日本の中央銀行たる日本銀行、日銀はかつてそうした独立性を有しているとはいえず、大蔵省(現財務省)の強いコントロール化にありました。それが諸々の理由で日銀法が改正され、日銀に法律上独立性が付与されます。

日銀はこの初めての状況の中、法律にある、「独立性」という理念を達成するために、新しい試みに次々とチャレンジしていきます。日銀の独立性確保の象徴としてつくて作られた最高決定機関である、政策委員会には外部からの人間も招かれ、様々な立場から激しい議論が行われるようになります。そしてこのドキュメントでも主要な人物として登場し、日銀法改正後、初代の日銀総裁となるのが速水優です。彼は日銀の独立性と政府との協力の中で多くの苦労をすることになります。

日銀は自らの独立性を確保しようとする中、国債引受け、サミット、非不胎化政策、など改正日銀法の趣旨が保たれるかの考えながら、懸案の処理していきます。

そして、日銀の独立性の問題を問いかける重要な試金石として「ゼロ政策」を中心とした一連の動きが存在いたします。ドラマが最高潮に達するのは日銀がゼロ金利政策を解除しようとするときです。様々議論を行ったうえでの日銀のゼロ金利政策、速見総裁はこうした異常な状況を長く続けるべきではない、という自らの信念の下、1999年2月に導入したゼロ金利を2000年8月に解除することを決意します。

一方、政府、大蔵省・経済企画庁は小渕・森政権のやってきた積極財政の効果が薄れてしまう、また、日銀の言うように景気、特に内需はこれから上向きに向かうと考えるのは楽観的に過ぎる、という立場からゼロ金利解除反対を主張し、様々な手段を用いて説得にかかります。

速水総裁はそれでも信仰にも似た強い信念でゼロ金利を主張し続けます。また、日銀の職員も日銀の独立性を主張し、政府の要求を圧力と捉え、これに対抗します。その中で、日銀の政策委員会のメンバーも苦悩します。日銀の独立性を重視するべきか、政府との強調も考えるべきか・・・。

そして最終的に日銀の政策委員会はゼロ金利政策を解除することを決定しました。速水総裁は自分の宿願を果たしたことにホッとしました。

しかし、日銀の予測とは異なり、その後景気が悪化します。そして、日銀は事実上のゼロ金利政策である量的緩和を実施することを決定しました。

 

上のあらすじでも何度か述べているようにここでのテーマは中央銀行、日銀は政府、そして国民との間でどのような関係を築くべきなのか?ということです。日銀の職員は経済学的に正しいと思うこと、政府に干渉されることなく実施していくことが日銀のあるべき姿と考えている傾向があります。一方、政府、大蔵省・j経企庁は国会議員(経済の理論を分かっているかは分からないが国民を代表する人たち)の影響を受けながら、現実の要求も組み込んだ政策を実施しようとし、理論を重視する日銀と対立していきます。(日銀の中にも政府との協調を考える人たちがいます。独立と独断は違うと考える彼らも日銀と政府の間で苦悩します。)

そうした現場のいろんな立場の人たちが、いろんな意見をぶつけていく。答えは出ないかもしれないけど、自分が信じる道を一歩一歩進んでいく男たちの様がここには書かれているように思います。

・・・

感想としては面白いです。何かよく分からないけど(そのうちわかるようになりたいです)みんな一生懸命にがんばっている、それがよく分かるようにできてます。しっかり取材されている感じがしますし、いろんな政策過程がかなり詳述されてました。

「日銀の独立性」、本で登場する人物が苦労して悩んで、まだ結論が出てないようなことを僕が分かるわけねぇよな、と思いながらも考えさせられましたね。この本でも紹介されていたように、日銀が政府に完全にコントロールさていたときの忌まわしき事例として戦前の日本があります。あのようなことが起こらないように制度として日銀の独立性を明白にしておく必要あるのでしょう。しかし、一方で、日銀も国の機関ですから、最終的に国民、そして国会・政府の影響をまったく無視することができないように思います。

ところで、問題の日銀法の改正、これは国民の支持でできたもの、というより大蔵省スキャンダルなどで偶然の産物的に改正された側面があります。したがって、日銀の独立性についてはあまり国民で議論されていないという面があるんでしょね。

その点に関し、最後に、取材を行った軽部氏はあとがきで述べていることを紹介しておきたいと思います。

「この組織って一体何なんだろう。金融政策は誰のものなんだろう――。国民生活にも関係が深いのに、今一つはっきりした像が結べない中央銀行の意思決定プロセスを、ジャーナリズムの世界から照射しておく必要がある・・・」

暇だったら皆さんも日銀にも関心を向けてみてください。僕もがんばってみます。


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