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『ポピュリズムに蝕まれるフランス』 [書籍:『』「」付記]

ポピュリズムに蝕まれるフランス

ポピュリズムに蝕まれるフランス

  • 作者: 国末 憲人
  • 出版社/メーカー: 草思社
  • 発売日: 2005/10
  • メディア: 単行本

前回のイギリスに続いてフランスです。

一般に、民主主義の国にとして知られるフランスですが、本書では現在フランスは「民衆なき民主主義」と表現されるような、民衆とエリートの分裂が生じており、民衆が民主主義に触れることができることが困難であると感じるようになっている、という現象が起こっているのではないか、ということが指摘されています。そして、現在においてフランスがポピュリズムに陥っている、ということについて警鐘を鳴らしています。

因みに、「ポピュリズム」という用語は日本でも最近聞く言葉ですが、大嶽秀夫は、

ポピュリズムとは「普通の人々」と「エリート」、「善玉」と「悪玉」、「味方」と「敵」の二元論を前提として、リーダーが「普通の人々」の一員であることを強調すると同時に、「普通の人々」の側に立って彼らをリードし「敵」に向かって戦いを挑む「ヒーロー」の役割を演じてみせる、「劇場型」政治スタイルである。

と、定義しています。

フランスは日本以上に学歴社会であり、政治家・官僚の多くがENAなどを卒業したエリートで占められています。そして、世襲の政治家も多く、そのことが政治と民衆の距離が開いてしまっている、ということが述べられています。ポピュリストはこうした状況を理解し、自らを民衆の側であると定義し、有権者の支持を集めていきます。

その顕著な例が、本書の中心ともなっている、三年前の大統領選挙です。記憶している人もいるかもしれませんが、この大統領選挙の本命は現職シラク大統領、そして中道左派で首相のジョスパンでした。しかし、大方の予想に反し、ジョスパンではなく右翼のルペンが決選投票に選ばれてしまいます。

ルペンは典型的なポピュリストであり、自らを大衆の側の人間と呼び、移民問題で排外的な主張を行い、国民の不安を煽るなどして、支持を集めていくことになります。一方、ジョスパンは政策は成果をあげていたのにもかかわらず、典型的なエリートで、支持を増やせないまま、敗退してしまいます。

結局シラクが大統領に再選しますが、その過程においてマスコミはルペンに対して過剰なまでのネガティブキャンペーンを張り、市民からも強いネガティブキャンペーンが行われました。

ルペン自体は大統領選で敗北しましたが、彼はこの選挙の中で民衆に注目され、大きく支持を増やしています。また、問題を二元論的に単純化し、民衆に訴えるポピュリズム的傾向は政治家に広がっています。サルコジ内相などもその例にあたると言われています。

その背景としては、エリートの支配、欧州統合で不安になっている国民心理があります、ポピュリストはフランス国民の不安をあおり、自らの支持を獲得するのです。

そして、国民、そしてマスコミもポピュリズム的傾向に陥っていると筆者は考えています。ものごとを安易で極端な意見に偏りがちになっています。先の選挙においても過剰にルペンがバッシングされましたし、そのほかにも教育現場においてイスラム学生がスカーフを巻くことが突如として政治問題となり、立法化されることになるなど・・・そうした事象はその例です。現在のフランスでは政策の善し悪しよりも、個人のもつイメージが重要になってしまっている、ことが指摘されています。

フランスは何処に行くのか、ポピュリズムを克服することは可能なのか?

これはフランスだけの問題ではありません、欧州全体に席捲しています。9月11日の選挙などに見られるように、日本もポピュリズムに陥っているのではないかと指摘されています。

 

・・・という感じの本です。少しイギリスとかぶる気がしないでもないですね。現代は不安の時代という感じがします。冷戦が終わって、ソ連という明確な敵もいなくなり、国民の統合も難しくなると同時に、グローバル化は人々の向上心を促進すると同時に、人々に安心・安定をもたらす事はありません。主要政党間の政策のぶれも少なくなってきていて、人々が選択する幅も狭まっています。すると、何を言っているのかというよりも、なんとなくはっきりしたことを言う人が求められているのでしょう。

筆者の意図とはなれて、この本から感じたのは、民主主義の生まれたフランスのような国でも日本みたいな、低レベルというか、民主主義をゆがめる事態が生じているのだな、と思いました。自分と同じようにだめな人を見つけると安心する、そんな気持ちに似ています。なんだか、フランスなどの欧州の国が少し身近になった気がします(・・・間違った感じ方ですが・・・)。

 

むかし、何処で聞いた気がするのですが、「民主主義を堕落させてしまうのは、民主主義の再生を望む真摯な願いそのものである」、ということばあった気がします。

本書で指摘されているように、ポピュリストも機会主義的ではありますが、民主主義を信じてますし、民衆も民主主義の復活を信じているのです。しかし、その願いがポピュリストという問題を逆に引き起こしてしまっている。かつてのヒトラーも民主主義の制度から生み出されました。欧州、そして日本などの先進国のポピュリストからヒトラーが生まれると考えるわけではありませんが、しかし、民主主義の形骸化、衆愚政治に陥っていないか、そのことは考え直されるべきことなのだと思います。

ということで、終わり。


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