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『胡錦濤 日本戦略の本音 ナショナリズムの苦悩』 [書籍:『』「」付記]

胡錦濤 日本戦略の本音 ナショナリズムの苦悩

胡錦濤 日本戦略の本音 ナショナリズムの苦悩

  • 作者: 朱 建栄
  • 出版社/メーカー: 角川学芸出版
  • 発売日: 2005/10/29
  • メディア: 単行本

時間が無いから読めないなー、なんていっているうちに読んでしまいました。

 

筆者を見て分かるように中国人の研究者が書いた本です。

本書からは中国の、特にリベラル系の人間が何を考えているのか、ということが判るような気がします。日中間の問題で大事だと思うのはお互いがお互いを理解することである、ということだとすれば、本書は日本国内だけに存在している、独善的一方的な主張を自己の中で相対化し、客観かするために有用であるように思いました。

靖国問題、東シナ海ガス田問題、中国の軍事力拡大問題、などで日本の中では色々な意見があるように思います。一方中国が、この問題をどのように理解しているのか、これをどのように考えているのか、中国から見たら日本の行動はどのように見えるのか、これを中国の研究者からみる、というのことも有用に思います。

中にはちょっと中国を良く見すぎだろう、と思える部分もありますが、面白い傾聴に値するような意見もあり良いように思いました。

初めの部分で筆者は中国理解が日本で妨げられる原因を書いています。

第一に、中国が極めて多面的である、ということです。経済発展もあれば環境問題、地域格差も大きい、経済の自由化は進んでいるが、人権問題はまだまだ沢山ある、ということで一部を見て中国を理解した気になってはいけない、ということでしょう。

第二に、中国を日本の基準で考えてはいけない、ということです。中国は個人所得平均などで見ればまだまだ途上国である、スターリンのソ連のような独裁体制ではないけれども、権威主義的な一党支配は存在しています。そして、現在の中国は経済の急速な発展の中、社会が猛烈なスピードで変化している国である、これは経済・社会が安定期に入った日本とは異なる、ということです。

第三に、現在の問題は中国が急速に発展したことにより、両国の主張の違いが顕在化した、ということであるということです。

第四に、第三と少しかぶりますが、中国経済の急成長と日本の停滞が同時に現れたことです。すると日本では中国脅威論など否定的な論調が増え、逆に中国ではこれまでの分も合わせて勢いのある主張が展開されるようになっている、ということです。

この辺は普通に納得できる分ではないかと思います。上のことは一般論としても通用する部分があると思いますが、筆者の指摘で面白いと思ったのは日本人はその一途さ、真面目さゆえに、ものごとをすぐに一面的に見て、悲観したり、客観化したりする、ということです。このことが上の傾向を強くしている、ということです。たしかにそんな面もあるのかもしれません。 

 

そうした分析の後に、そして現在の胡錦濤政権はどのように考えているか、が記述されていきます。

簡単に言うと現在の胡錦濤政権は国際協調を重視するようになり、国際環境を安定化させることによって、特に自国の経済の発展を果たしたいと考えている、ということです。そして日本ともできれば協力していきたい、という考えを持っている、ということです。

これは中国がまだまだ日本・米国に経済的にも、技術的にも、また軍事的にも勝てると考えていない、ということによります。

かつての中国では、特に毛沢東時代には顕著でしたが政治を全てに優先させてきました。しかし鄧小平以降、経済重視にシフトするわけですが、経済の発展を優先させることを考えると、国際的な協調が必要である、ということを認識するに至った、というのです。

そしてアジア最大の経済大国である日本との協調は、経済的も、また技術的にも必要である、と考えるようになったというのです。その中で何時までも歴史問題だけに拘り、あらゆる問題を歴史問題に結びつけ、日本との関係をこのままにしておくわけにはいかないし、不毛ではないのか、ということが考えられるようになった、ということが書かれていたように思います。

個別の問題についても中国の視点から考察が加えられています。

軍事力の問題についても中国から見れば、自国のGDPの成長率に合わせて増加しているだけである、「隠れた軍事費」があるのは事実であろうが、中国の現在の技術能力に照らしても公表されている何倍もあるわけではない、過去においてもそうだったが、中国の力があまり強くないので、自分を少し大きく見せるためにそのようなことが行われいる、ということです(ただ、筆者は透明性の確保の要請は避けられないだろうといっています)

民主化については、政府は未来において裂けることのできない問題であると思っているようです。特に近年においては中国に富裕層、そして中間層が出現しており、彼らの自己表現の欲求が強まっている、ということの述べています。

また、これに関連して近年では中国指導部だけでなく、こうした中間層も政治的な意見を述べるようになったことが、中国の理解を困難にしているのではないか、ということが述べられていました。中国に表現の自由はちゃんとあるわけではないですが、インターネットの普及に伴い彼らの意見が世の中に出てくるようになったというのです。彼らは十分な教育を受けているわけでは必ずしも無く、無秩序な感情的な意見を述べている、というのです。

 

まあ、こんな感じで色々書かれています。ただ注意しなければならないのは筆者は中国の立場を全面的に肯定しているわけではない、ということです。靖国問題に対する中国の強硬な姿勢は必ずしも妥当ではない、と考えているみたいです。ただし日本にも問題があるのであり、双方がお互いの利益のために、お互いを冷静に見て、win-winの関係を築く必要がある、というのが筆者の主張です。

そして両国に存在する最大の問題はナショナリズムであろう、これは両国の関係が大きく変わろうとしているとき、通らなければならない難関であろう、ということを書いてましたかね。

 

感想。最初に言ったとおり中国に肯定的な部分が多すぎるように思いました。ただ、良い部分が全てが脚色されているわけではない、ということも思います。

中国にも単独行動主義的な動きだけではない、というの確かのように思います。中国の国益に照らして、中国の取りうる行動に国際協調主義的な動き、対日重視の動きがあるのは、冷静に考えれば当然のように思います。

筆者の視野が広いのにも感心させられます。大きな文脈で日中関係を捉えているように思います。

ただ残念なのは中国の国際協調的な動きだけが強調されすぎているのかな、と思えることです。中国の単独行動的な動き、狭い国益だけを追求する動きの描写があればもっと説得力のある本のように思えました。

また、中国の戦略についても中期的なところまでは書いてましたが、それ以降の話について言及が無かったのも本書が楽観主義的に過ぎるのかな、と思わせる部分ではないかと思います。

日本や米国には追いつけないから今は経済優先で行くんだ、そのためには国際協調だ、というのは分かりましたが、それでは追いついたらどうするのだ、ということが分かりませんでした。地域的な覇権をとるのか、世界的に米国と対等になろうとするのか、その辺の記述がなったのも残念です。もっともそれは遥か先の話であり、そこまでは願望として持っていても、現実の政策にはかかわりの無い話なのかな、と考えることもできますが。

こうした状況の中、日本はこの中国をどうみるのか、そしてどうするのか、議論は尽きないように思いますが、「この点がけしからん」だけではなくて現実可能性のある選択肢から、考えていくためにも良い本です。

最後に、日中の対立で東アジアの協調が停滞している、ということが言われますが、逆に進んでいる側面があります、ということを本書では言っています。例えば中国がASEANに経済協定を結ぼうとすれば、日本も同様のこと、または更に一歩進んだことを行おうとしている、というのです。やはり、おもしろい指摘でした。

こういうライバル関係なら良いのかなー、なんて思います。

 

 


だめだ、酔っ払った頭では満足いく書評がかけない…。繰り返しが多いよぉ。仕事決まったら書き直します。絶対。・・・きっと。


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