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第七章 大量破壊兵器の不拡散 [軍縮・不拡散問題入門]

軍縮問題入門
• 作者: 黒沢 満
• 出版社/メーカー: 東信堂
• 発売日: 2005/10
• メディア: 単行本

第七章 大量破壊兵器の不拡散

第一節 大量破壊兵器不拡散の意義

大量破壊兵器WMD:weapons of mass destructive とは、「原始爆発兵器、放射性物質兵器、致死的化学・生物兵器、および破壊効果において原子爆弾や上述その他の兵器に匹敵する性質を持つ将来開発される兵器を含む」と定義される(1947年の通常軍備委員会)。

国際社会がWMDの取組みに着手したのは、WWII後であり、その動きが加速するのは冷戦中盤である。まず核兵器について核不拡散条約NPT(1968)、が成立し、その後生物兵器禁止条約(1972年)化学兵器禁止条約(1993年)が成立した。

こうして法的枠組みが整備されて後、冷戦後、特に第三世代諸国への拡散問題が、国際社会の最優先課題の一つに位置づけられるようになった。しかし、拡散懸念国はこうした条約の枠組みに加入せず、拡散懸念国には規制のための法的枠組みは機能しない。

特に北朝鮮は弾道ミサイルの開発を進め、中東に輸出するなど、拡散源となっている。グローバル化の中WMDの拡散阻止が困難になりつつある。また、テロへの拡散もまた主要な問題となっている。

既存の法的枠組みだけではWMD拡散の問題を対処できない。これを補完するものとして、様々な枠組みが発展しつつある。
 
第二節 大量破壊兵器の輸出管理
WMD拡散を阻止するには
①経済制裁のような負のインセンティブや制裁を与えて拡散を防止する、
②経済援助を引き換えに兵器の取得を留まらせる、
③軍備管理体制構築により、兵器に対する需要を減らす、
④兵器を取得する際の障害を設ける、
等があるが、輸出管理は④のカテゴリーに入る。
 
輸出管理が効果を挙げているかどうかは、①兵器開発などに関する技術の難易度、②国家の技術力、工業力、③汎用技術の管理可能性、④輸出国間の協力の度合い、⑤管理体制参加国における監視、行使体制、などの要因に左右される。しかし、これを完全コントロールするのは難しい。

そこで輸出管理においては、

①輸出管理によ技術移転の速度を落として開発を遅らせ、この間に外交交渉その他手段との組み合わせることにより兵器拡散を遅らせる、
②輸出管理を特定の国、特定の計画にターゲットを絞り、その効果を高める、
③輸出管理についての対話や国際会議を通じて拡散防止に関する規範意識の醸成を図る
が望まれることと成ろう。
 
輸出管理体制。冷戦期には対共産圏輸出管理委員会(ココム)が設立され、西側から東側への技術流出を管理し、東側の兵器開発を抑制する役割を果たした。ココムは冷戦終了とともに1994年に解散した。

冷戦後の中心は不拡散型の輸出管理である。現在の輸出管理は、
核兵器関連の原子力供給国グループNSG、
生物・化学兵器関連のオーストラリア・グループAG、
ミサイル関連のミサイル技術管理レジームMTCR、
ココムの後継として設立されたワッセナー・アレンジメント(協約)
の四つのレジームから構成されている。

これらのレジームは参加国の意見調整や意見交換のための役割を果たしている。レジーム内で合意形成を経た後の輸出管理は各国の国内法に基づいて行われる。

各レジームはWMDに直接利用されるものだけではなく、WMDに転用可能性のある汎用品も管理対象とする。汎用品の管理は困難であり、リストの拡充に加え、対象品目を特定しないで、WMDの開発に使用される可能性を輸出者が知っている場合にはそれら全てを規制対象とするキャッチ・オール規制と呼ばれる管理方式の重要性が増している。

現状と課題。輸出管理体制の重要性が増したのは湾岸戦争で一般民生品がWMD開発に用いられていたことが明らかにされたことがきっかけである。その後9.11テロはWMDとテロの結びつきの恐怖を想起させた。
2004年にはパキスタンの科学者、カーン博士が中心となった核の闇市場の存在が発覚して、核拡散の懸念が高まった。

こうしたWMD拡散懸念から、2004年には安保理決議1540が採択され、テロ集団にWMDが渡ることへの厳しい対応が求められた。
 
第三節 ミサイル不拡散とミサイル防衛
 
 ミサイル、特に弾道ミサイルの拡散は冷戦後急速に進んでいる。ミサイルそのものは兵器の運搬手段であるが、第三世界にとっては自己所有のWMDの最大効果を狙うために貴重な存在である。

ミサイルは自国の安全保障のみならず、大国の政治干渉を排除するための政治的自立性確保ために魅力的であり、このことが拡散の助長につながっている。

イラン・イラク戦争でミサイルが用いられたことを契機として、ミサイル不拡散の動きは本格化し、1987年、米国主導でミサイル技術管理レジームMTCRが作られた。このレジームは湾岸戦争を契機にミサイルのみならず、WMD全般を運搬可能なミサイルおよび関連汎用品・技術までその対象としている。

MTCRは法的枠組みではないが、レジームの枠内において一定の役割を果たしてきた。しかし、その枠外でミサイルの拡散が発生する。

90s広範に印パ、北朝鮮がミサイル実験を続けたことを受け、2002年弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範HCOCが93国の署名を経て採択された。徐々にであるが法的な規範意識が形成されつつある。

2003年、米国は拡散、特に各種レジームの非加盟国における拡散を懸念し、拡散防止構想PSIを打ち出した。PSIは一定の成果を挙げるが、拡散阻止には本来的限界があり、ミサイルの増加・拡散を阻止できないと考えた米国はミサイル防衛を重視する傾向を強めた。

ミサイル防衛。湾岸戦争後、米国は戦略防衛構想を縮小し、より現実的脅威いである戦域ミサイルを対象にしミサイル防衛計画に着手するようになる。

クリントン政権ではロシアなどに配慮し、先送りにされたが、2001年ブッシュ大統領はこれを激しく批判、戦域と本土を区別しないミサイル防衛MDの積極的推進を打ち出した。9.11テロ事件はMD計画に拍車をかけ、2002年にはABM条約も脱退、計画の強化に勤めている。

日本は米国からの強い要請を受けて1993年の政府間協力開始以降、協力を進めてきており、2004年には米国とのミサイル防衛を武器輸出三軒原則の適用除外と決定した。2006年からは日米共同技術研究から共同開発段階に移行する予定である。

 

第四節 拡散防止構想PSI

過去にも大枠についての記事あり

WMDに拡散阻止のためには既存国際法が変革される必要を感じた米国はPSIを打ち出した。

PSIの参加国はコア・グループ(15カ国、日本含む)による総会を開き、PSIの目的および原則を明らかにした、原則阻止宣言を発表している

PSIはテロリスト、拡散懸念国に対してWMDが拡散することを防止することを目的とする。

①拡散懸念国などとWMD関連貨物の輸送や輸送協力を行わない

②WMDを輸送している疑いのある自国船籍の船舶を臨検し、関連貨物を押収する。

③自国領域を通過する船舶がWMD関連物質を輸送していると疑いのある場合は、臨検および関連物質の押収を行う

④航空機についても、自国領域を通行している場合、着陸を求め、関連物質を押収する

⑤港湾・空港がWMD関連貨物の運搬の中継点として使用される場合、その船舶や航空を検査し、当該貨物を押収する。

 

 PSI参加国は合同海上訓練を行うなど阻止能力の向上をはかり、参加国拡大などのためのアウトリーチ活動も精力的に行っている。

PSIの成果としては2003年11月にリビア船籍の船から遠心分離機部品などを押収し、リビアのWMD計画放棄を後押しし、核の闇市場を明らかにしたことがある。

ただ、現行国際法の枠内での行動であるPSIには臨検などにおいて現実上の困難が生じている。米国はパナマ・リベリアなどの便宜置籍国を乗船協定を結びPSI実施の可能性を拡大することを試みている。また、シージャック防止条約の改正を行い違法なWMD輸送を可能にする国際法枠組みの変換を行おうとしている

 

第五節 大領破壊兵器とテロリズム

テロリズムとWMDの結びつきの懸念は70sから存在していたが、その重要性が認知されるようになったのは90s後半になってからである。背景にはテロの目的が政治目的から無差別攻撃に変わったことなどが挙げられる。そして9.11テロ以降はこの脅威が明確に共有されるようになった。

また90sにはWMDが入手しやすい状況が生まれた。ロシアにおける核物質などWMDのずさんな管理(ルース・ニュークス)がその背景である。安全保障に対する意識の希薄、旧ソ連が生物兵器禁止条約に違反して大量のバイオ兵器を有していたのも問題であった。また医療・研究用実験ならば細菌バンクから、危険な菌類を入手することができるようになった。

可能性。WMD使用の可能性は平気ごとによって異なる。

核兵器の場合、資金・技術・施設および実験の必要性からして、その製造は不可能に近いが、ダーティボムと言われるような即席の核爆発装置を組み立てることならばあり得る。また原子力発電所を攻撃することも想定できる。

生物・化学兵器テロは核テロと比べて、その入手のハードルが低い。特にバイオテロの場合特殊な機材と能力があればマンションの一室で製造することが可能である。

核・生物・化学兵器の製造方法は秘密でもなんでもなくインターネットなどで精度の高いマニュアルが堂々と売られている状況である。

 

9.11テロ以降の対策は大きく三つに分かれる。

①未然防止措置

②被害管理…これは万一テロが発生した場合に迅速な対処をもって被害範囲を限定するものである。

③実行犯への法的対処・・・WMDテロを裁くための法律や文書の整備は重要である。またテロの場合国際司法共助を重要である

 

第六節 大量破壊兵器不拡散の展望 

WMDの拡散可能性は近い未来に解決されないだろう。WMDが実際に利用される危険は高まるのかもしれない。

国際社会は拡散のペースを遅らせ、その間に拡散懸念国にWMDの保有を放棄させ、あるいはWMD取得の意思を持つ非国家主体を摘発することが必要となるであろう。

またテロはWMDの緩い途上国で活動を行うことが予想される。WMDの問題は一部の国の問題ではなく、国際社会全体の問題である。

 


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