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第五章 化学兵器の禁止 [軍縮・不拡散問題入門]

普段の閲覧数と異なり何故か昨日だけいつもの10倍以上の閲覧数が・・・何故だろう。しかも忍者カウンターには反映されていないし。ホントよく分からない。


軍縮問題入門

軍縮問題入門

  • 作者: 黒沢 満
  • 出版社/メーカー: 東信堂
  • 発売日: 2005/10
  • メディア: 単行本

「第五章 化学兵器の禁止」は大学時代のゼミの先生だった浅田先生ご執筆。だからなんだってわけでもないですが、書いていきます。

第一節 化学兵器禁止の意義

化学兵器使用の最初の事例はWWIでドイツが塩素ガスを使用したことであるとされる(イープルの黄色い霧)。連合国側もこれに対抗して化学兵器を作成し応酬している。

連合国はガス・マスク装着によってドイツの化学兵器の効果を縮減しようとしたが、ドイツはマスクのみでは防護できない糜爛性剤のマスタードガス(致死性)を作成している。

WWIでは化学兵器の応酬で死傷者が120万人程度、死者が10万人以上出た。戦中、戦間期には強力な化学兵器である、ルイサイト・タブン・サリンの開発・生産もなされた。

 

化学兵器の種類

①窒素剤

②血液剤

③糜爛剤

④神経剤

⑤無能力化剤

 

第二節 化学兵器禁止条約CWC

戦後のジュネーブ軍縮会議では核兵器軍縮が優先されて、1968年にNPT成立の後生物・化学兵器の軍縮交渉が開始されることになる。1969年には「化学・細菌(生物)兵器のその使用の影響」(BC兵器白書)が刊行している。

その後英国の提案により、生物兵器と化学兵器を分けてそれぞれ交渉することとなり、生物兵器禁止条約が先に交渉され、条約が1972年に成立する。しかし、CWCの交渉は遅々として進まず、1992年軍縮委員会の後進、軍縮会議において完成を見た。この背景には米ソの対立がある。

その後、イラン・イラク戦争における化学兵器使用、それを契機としたオーストラリア・グループの結成に象徴される化学兵器拡散の危機を背景に、交渉が本格化する。湾岸戦争に前後して、ソ連と米国も義務的現地査察を原則的に受け入れ、化学兵器の全面的禁止、全面廃棄が可能になる。

CWCは1997年に発効、締約国会議、執行理事会、技術事務局からなる化学兵器禁止機関OPCWが同時に発足している。

定義。2条①毒性化学物質及びその前駆物質、②毒性化学物質の放出のために特別に設計された弾薬類・装置、③右の弾薬類、装置の使用のために特別に設計された装置を合わせてまたは個別にいうものとされる。

また、条約目的に反しない活動を保護するべく、条約によって禁止されていない目的のためのものであって、その種類と量が当該目的に適合する場合には、毒性化学物質やその前駆物質であっても化学兵器とはみなさない旨の除外規定が置かれた。

規制

・化学兵器の使用禁止…化学兵器の使用については暴徒鎮圧剤や除草剤について一定の規制を及ぼすとの解決が図りながら、「いかなる」場合にも化学兵器のしようを禁止する。条約締約国だけでなく非締約国にたいする使用も禁止される。

・化学兵器の廃棄…締約国は「所有」「占有」する化学兵器について自国の「管轄」「管理」の下にある化学兵器を廃棄することを定める。

化学兵器の廃棄は条約が発効してから2年以内開始し、条約自体発効から10年以内完了することが義務付けられている。

CWCは通常のものとは別に老朽化化学兵器と遺棄化学兵器には別の規定を定めている。遺棄化学兵器(1925年以降にその同意を得ることなく他国に遺棄されたもの)については遺棄締約国と領域締約国の双方に廃棄義務を課している。しかし、検証付属書では廃棄のための全ての資源は遺棄締約国がが提供するものとされる。

日本が中国に遺棄された70万本以上の化学兵器について除去することはこの検証付属書の義務に基づくものである。

また、CWCは化学兵器生産施設の廃棄まで義務付け。この種の条約では前例のないほど義務が徹底されている。

 

産業活動の規制

・化学兵器の生産禁止…化学兵器は民間企業にも製造可能なため、その拡散阻止は化学産業による申告に基づいた査察によって確保する(産業検証)。

民生用の化学物質の使用については、申告と査察受け入れ義務があるだけで、生産量の制限といった活動そのものに対する規制は原則として存在しない。ただ、化学兵器以外の使用が想定できないサリンなどについては、研究などの目的の場合であってもその保有量を制限し、生産施設は国の承認を得ること、検証類似の制度を定めることなどの義務がある。

・化学兵器の拡散防止-貿易規制…拡散の問題はCWC成立の大きな動因となっているものなので、CWCでは「化学物質に関する付属書」に掲げられた表在に関して貿易規制を行うことで対処を図っている。

付属書の中、表1剤については非締約国への移譲・輸出は禁止され、締約国には許容された目的のためである場合に限って移譲が認められる。表2剤、表3剤も、非締約国と締約国に区別をつけて、非締約国が条約に加盟する誘引を高めている。

 

申立て査察。検証措置は条約が守られているかを確認するために重要である。産業検証、廃棄検証は申告に基づくものであったが、申告が行われなかったものには無力である。この意味で各締約国には拒否権がある。

CWCでは拒否権のない「申立てによる査察」の制度が作られた。これは軍縮関連条約としてはじめて設けられることになった。

「申立て」は条約違反の懸念を持った各締約国の要請によって開始され、執行理事会が4分の3で中止を決定しない限り、査察は実施される。

被査察国に対しては、査察団に入国12時間前に査察の通告が行われている。ここで被査察国は査察対象区域を決定するべく交渉を行う(外縁交渉)。被査察国は108時間以内に査察要請国が要請した外縁内でアクセスを提供する義務付けられている。

アクセスは完全無制限ではなく管理されたアクセスの手法が適用される。自国の情報保護のために被査察国は査察の交渉により、設備への覆い、サンプル分析の制限などの措置が取れる。(ただしそうした物件など懸念と無関係であることを証明するために「あらゆる合理的な措置」をとる必要がある)

 

第三節 化学兵器禁止条約の実施

現在CWCの締約国は160以上にのぼる。その理由としてはNPTと異なり、被差別的性格、違反を許さない徹底した検証制度、加盟の誘引となる貿易制限措置などによるものと思われる。

締約国も単に多いだけではなく、米露等全ての安保理国、日本・ドイツなど主要先進国や、インド・パキスタン・ブラジルなど地域大国が含まれている。化学兵器保有国と疑われてきた多数の国も含まれており、近年ではリビアの加盟が注目される。

他方、イラク・シリアや北朝鮮など一部の国が非締約国として残っている。

CWC発効と同時に各種申告が行われ、化学兵器保有国は冒頭申告でその事実を公表することになる。

申告された化学兵器・化学兵器生産施設は条約規定に従って廃棄されることになるが、義務の履行状況が芳しくない。特にロシアは財政・環境問題のために2002年にようやく廃棄作業を開始するようになる。

 

第四節 化学禁止条約の展望

化学兵器規制の必要性は、大量破壊兵器の中でも化学兵器が最も使用可能性が高く、最も製造が安価かつ容易であることから、禁止への合意に抵抗があったこと、広範に存在する民生用途との関係から、検証措置への合意にも困難を伴ったことなどによる。

CWCは先に成立したNPTや生物兵器禁止条約に比べてすぐれた点が多い。NPTは核兵器国と非核兵器国とに分けている点で差別的であるが、CWCは全ての国が平等に扱われている。

また画期的な検証措置がとられていることも注目される。

しかしこの画期的なはずの「申立て査察」がこれまで一度も実施されていない。2003年の第一回CWC再検討会議でもこの点が問題にされている。これは条約の信頼性をも失わせかない。

「申立て査察」が行われない理由は、

「申立て査察」を行っても発見できないことがあり、疑惑国の「無実」を証明するということにもなりかねず、疑惑国への制裁正当化が困難に成ること、

報復的申立て査察の可能性、

申立て査察を行う際には、違反の疑惑に関連する情報を提供する必要があるが、これは情報源の秘匿保護の観点から問題がある、

CWCを超えた広い意味での二国間関係の考慮、

ということが挙げられる。

先進国は違反抑止の観点から申立て査察のルーティン化を主張し、途上国は申立て査察のルーティン化を主張する。この対立は申立て査察に関する対立はかなり根本的なものであって容易には解決しそうにはないが、この問題はCWCの将来に関わる重要な課題である。

 


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