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第二章 核兵器の不拡散 [軍縮・不拡散問題入門]

 
軍縮問題入門

作者: 黒沢 満
出版社/メーカー: 東信堂
発売日: 2005/10
メディア: 単行本

 

ということで第二章です。

第一節 核兵器不拡散の意義

国際的な核不拡散体制の中心はNPTである。さらに非核兵器地帯条約もNPTを補完するものとして重要である。

IAEAは原子力の平和利用が核兵器の製造に転用されないようにするため、IAEAの保障措置が適用される。そのためには国家はIAEAと保障措置協定を結ぶ必要がある。現在IAEAの保障措置は追加議定書などで強化される傾向にある。

核関連品目や技術移転が核兵器の拡散につながることを懸念して、その輸出管理レジームとして70sから原子力供給国グループNSGがガイドラインを作っている。

また旧ソ連圏における核の管理のために92年から協力的脅威削減CTRプログラムの実施がされている。

 

NPTは当初は日本・ドイツなどの先進国を核拡散の懸念国として考えていたが。冷戦後はフランスや中国などの核保有国の参加が確保できたものの、新たな懸念国としてインド・イスラエル・パキスタンが登場し、NPTへの重大な挑戦となっている。

 

湾岸戦争でIAEAはイラクに問題はないとしていたが、安保理決議のもと行われた査察はイラクの核開発疑惑を肯定した。イラク戦争後、米国による査察が行われたが、イラクの核開発は確認できなかった。

北朝鮮はNPTに加盟していたものの、92年に保障措置協定に加盟。1993年にIAEAは特別査察を要請すると北朝鮮はNPT脱退を通告。このときには米朝高官協議の進展により脱退の効果を停止している。94年には米朝枠組み合意が成立している。

2002年米国が北朝鮮への核開発疑惑を主張すると両国の関係は悪化、北朝鮮は再処理の開始、NPTを脱退した。その後は日韓中露米との間で六カ国協議を開催している。

リビアは英米との秘密交渉の末、核兵器開発の廃棄、IAEA追加議定書に署名することに合意した。

イランは2003年10月に英独仏による民生用核技術の提供の引き換えに、ウラン濃縮の停止と追加議定書への加盟を約束している。しかし、その後ウラン濃縮再開が明らかになるが、イランは平和利用の権利を主張している。

 

第二節 核不拡散条約NPT

NPTの基本的大前提は核兵器国(米露英仏中)と非核兵器国の区分である。

第一に、核兵器国は核兵器その他の核爆発装置をいかなる者にも委譲しないことが、非核兵器国はこれを受領しないことがそれぞれ義務として課される。

第二に、非核兵器国は核兵器その他の核爆発装置を製造しないことを約束している。非核兵器国は原子力平和利用を核兵器に転用しないように、IAEAの保障措置を受ける必要がある。

保障措置協定は湾岸戦争を契機に申告のない原子力活動も申告で器量に追加議定書が作成されている。

第三に、4条として原子力の平和利用およびそのための施設・技術などの提供などの促進が規定されているが、現在新たな不拡散政策の導入からこれを制限する方向で動いている。

第四に、核兵器国への要請として、核軍縮義務そのものではなく核軍縮のための誠実交渉義務を規定している。非核兵器国からは核兵器国に核開発の廃棄の見返りとして、核兵器国は非核兵器国に対して核兵器を使わないという消極的安全保障を求めているが、条約上の義務とはならなかった。

 

第三節 再検討会議における議論

95年核不拡散条約の再検討・延長会議が開催され条約の無期限延長が決定される。同会議では条約の再検討プロセスの強化と核不拡散と核軍縮の原則の目標も決定されている。

核軍縮については1)軍縮会議におけるCTBT交渉を96年内までに完成すること、2)兵器用核分裂性物質の生産禁止に関する条約(カットオフ条約)の交渉を開始し、早期に締結すること、3)核兵器の廃絶そのものを目標とすることを具体的な措置として追求している。

2000年の再検討会議では将来とるべき措置についての合意が形成され、コンセンサスで最終文書を採択するのに成功した。

 

第四節 国際原子力機関(IAEA)保障措置

IAEAはアイゼンハワー大統領の提案を受け57年に憲章が発効し、NPTとは本来別の組織である。

しかし、NPT3条はIAEAの保障措置を受ける義務を規定している。NPT3条1項はすべての核物質に適用される旨規定している。その本質は検証にある、検証は技術的に行われる。

この検証が正しく行われることを前提としてIAEA・NPT体制は信頼醸成措置として機能を果たすことになる。しかしIAEAの保障措置協定に基づく査察は締約国が申告した施設の働くのみである。イラクや北朝鮮のように協定違反の国が現れると、IAEAは新たな検証措置活動をとる必要が生まれた。

追加議定書はまさにその意味で作成されたものである。追加議定書は申告しなければならないものを拡大し、また査察員の接近箇所は補完的なアクセスとして拡大された。補完的なアクセスは短期の事前通告により無作為に実施される。

 

第五節 協力的脅威削減CTR

ソ連の崩壊により冷戦は終了したが、残された核戦力の存在が問題となった。核戦力の削減はさまざまな作業が必要である。しかし、崩壊した後のソ連の混乱はSTARTI条約などに基づく核軍縮を独力で進めるための基盤を喪失させ、また核戦力の軍備管理能力が損なわれたことによってその不拡散の懸念が強まった。

そこで米国は93年に協力的脅威削減CTR法を作成し旧ソ連諸国へ核戦力削減プロセスを誠実に実施するための支援を開始した。同時期欧州や日本も同じ行動をとっている。

CTRの目的は多様である。

当初米国が懸念したのはソ連の混乱に際して誤って核が爆発してしまうことであり、軍縮プロセスの危機管理と安定化が中心的な目標に添えられた。また米国にとっても拡散の脅威の削減は国益に資するのであり、米露間の信頼醸成にもつながる。

90年代後半からは核物質その他のWMDの拡散リスクへの認識も高まった。特に抑止が通じない非国家主体への核の拡散は重大な脅威として認識されるようになった。

2001年の9・11テロはCTRのグローバル化を促す契機となった。2002年のカナダのカナナスキスのG8サミットではテロとWMDの結びつきを懸念し、G8グローバル・パートナーシップが合意された。その後プログラムはG8以外にも拡大され参加国も増加した。同時にロシアに限定されていた支援もウクライナなどその他の国家にも支援対象国が増加している。

 

第六節 核不拡散体制の展望

第一に、印パ、イスラエルなどの加盟を促すなどNPTの普遍性を高める必要がある。これを長期的な展望としつつも、短期的な目標としてカットオフ条約の作成とそれへの加盟や、CTBTの批准を促すべきである。

第二に、履行確保ためにもIAEA保障措置の追加議定書の締結を推し進め原子力協力の条件とするべきであるし、違反した国家への積極的な対応および脱退問題に対する対応が必要である。

第三に、核物質がテロリストの手に渡るのを防止する措置が必要であり、核兵器などの物理的防護を強化するとともに、輸出管理を整備し、核の闇市場の撲滅などの措置を緊急にとるべきである。

 

2005年のNPT再検討会議ではこうしたさまざまな議論が行われ、部分的な合意が見られたものの、全体としては最終的な合意を文書を作成することができなかった。

その最大の原因は米国が国際社会の変化、、また軍縮については問題がないことから不拡散のみを議論すべきであると主張したのに対し、中東の非同盟諸国などがイスラエルなどの核軍縮を問題にしてお互いが歩み寄る姿勢を見せなかったことによる。これは核不拡散体制構築のための絶好の機会を失ったことを意味し、今後とも不拡散・軍縮・原子力平和利用の三本柱がバランスよく議論される必要がある。


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自由

質問があるのですが、最近軽々しく日本は核武装すべきという言説がありますが、日本がもし核武装をしようとした場合、各国はどのような態度をとると思われますか?私は経済制裁まであると思いますがどうでしょうか。
by 自由 (2006-03-20 21:08) 

mof

この問題は日本がどうしたら核武装をするか、ということによると思います。
現在僕は日本が核武装をすることはほとんど無い、というように思います。
何故ならば、いろいろありますが日本が米軍の核の傘に入っていることが大きいと思います。あと国内世論。そしてこれまでの国際世論、外交関係の整合性も大きいです。
日本が核武装をすることがありえるとすれば、朝鮮半島の非核化が避けれなかった場合、かつ、米軍の核の傘がなくなった場合、であると考えます。その上で中国が安全保障上の脅威を日本に与える場合、といったような状況になって考えられると思います。
この上、日本が核武装をするとなるとこれまで主張してきたことと全く異なることをするわけですから、外交上の困難、特に国連とIAEAで生じると思われます。
近隣諸国の反対も必死でしょう。
これまでの外交で積み上げてきたことを壊すわけですから、それでも核武装を行う、ということであればよほど国際関係が緊張していることが予想されます。また国民の反対を押し切れるほどであるということは、国内世論を相当に危険な水域にあることが予想されます。この状況で核武装をすればさらに緊張が高まることが予想されます。

経済制裁についてはなかなか難しいところで、過去の事例を見ても経済制裁が安全保障上の理由で先進国に対して行われるか、ということはかなりの疑問があります。その国との貿易関係が大きいと逆に踏み切れないこともあります。

あり得るとすれば、国際社会が一致して日本に制裁する場合、つまり経済制裁が効果を迅速かつ十分に挙げうる状況が必要になると思います。また、イランの例を見れば明らかなように、常任理事国が一致していること(無論日本が常任理事国になっていないとの前提ですが)も必要になると思われます。

とか考えてみましたが現状からどう変わるか、ということに大きく依存するのでなんともいえません。申し訳ないです。

再び戻るようですが、少なくとも日本が核武装をすることにはメリットがあまりないように思います。無駄に近隣諸国の危機感をあおりますし、これはひいては自国の安全保障にかかわります。途上国が核を持つインセンティブとして大国に対等になりたいという意識があります。しかし先進国が新たに核を持とうとしてもむしろ自国の状況を悪くするだけであり、このインセンティブが働かないように思います。

また日本は核の平和利用の権利の下、核関連技術を合法的に持っています。今でも核兵器が何発も打てるようなプルトニウムを持っていますし、兵器に転用するための技術を持っています。
ですから核武装をするよりもミサイル技術を保有することが先に求められるように思います。そして核武装しなくてもいつでも弾道核ミサイルを撃てる状況にしておく、というオプションがとられるのではないかと思われます。
あと、周辺諸国は日本が核を持つ可能性を捨てずに、これを恐れているので、そもそも日本が核を持つような国際環境にならないように努力するのではないかとも考えられます。

以上長文の上まとまりも無く、答えになっていないのですが、こんな感じで考えています。要約するとよくわからない、ということになってしまうかもしれません。
by mof (2006-03-20 23:41) 

自由

教えていただいてありがとうございます。要するにアメリカがどのような態度をとるかで決まってくるという事でしょうか。イスラエルの核武装やインドの核を容認する態度を見ると、結局アメリカの国益(インドやパキスタンの核を容認することが本当にアメリカの国益になるとは思えませんが)しだいで容認するような気がします。しかし、アメリカとすればドイツと日本の核武装を認めるかは疑問に思います。日本の国連の常任理事国入りも事実上反対でしたし、牛肉問題でもほとんど考慮している気配が感じられません(国の制度まで変えて従米路線をとっているのに)。発展途上の国が核武装するのと先進国である日本が核武装するのとでは重みが違いますから、完全な仮想敵国にされて(軍にとっても予算を獲得する上で好都合ですし)、今の中国脅威論的なプロパガンダで常に標的にされるような気がします。結局私もよく分かりませんが(人によっては核武装を認めていると言う人もいる)やはり、不勉強な評論家が口走っているのならまだいいでいすが、国政を担う国会議員がこのような発言をするのは、ことの重大さを分かっていないということでしょうか。
by 自由 (2006-03-21 23:33) 

mof

米国は近く予想される将来において日本を敵視することは内容に思います(人によって日本軽視とか、従属させる気だと見る人はいるかもいるかもしれませんが)。仮想的をつくるにしても中国とテロリストがいれば十分でしょうし、実際に中国にたいして、特に共和党ですが、懸念を持っており、日本を米国側にひきつける必要があるからです。

それはそうと、国会議員の人は、いろんな人はいるからなんともいえませんが、国会対策はあれほど根回しとか色々するのに、国際関係にそれほど注意を払っているか疑わしいような気がします。これは多くの国で見られる現象だと思います。やはり選挙への関心が一番ですから、外交はそのための犠牲にされる傾向にあるのでしょうね。あと、美学ですかね。なんか自分によってる感のする人が多いですので。美学で国際関係されても困りますけど。
まあ、首相になろうとして、かつ実際に首相に近い人はキチンと考えると思いますけど。ただ最近は首相が「ポピュリズム」に進む傾向(日本だけではないです)あり、外交・安全保障にこれが持ち込まれないか懸念されると思います。
by mof (2006-03-22 04:40) 

自由

なるほど。そう言われればそうかもしれません。この問題にはっきりとした結論を出すのは、やはり難しいですね。もし核武装できたとしても私個人は核武装してほしくないです。いろいろ教えていだだいてありがとうございました。
by 自由 (2006-03-22 18:34) 

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