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『国家と外交』田中均&田原総一郎 [書籍:『』「」付記]

国家と外交

国家と外交

  • 作者: 田中 均, 田原 総一朗
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/11
  • メディア: 単行本

田中均といえば知っている人も多いのではないかと思います。

小泉首相の訪朝を実現した外務省のキーパーソンです。その後いろんなところで叩かれる羽目になってしまい、怪しい人に爆弾を送られることも。最近外務省を退官。来年から大学院で外交を教えてくれるそうです。

だから、というわけではないですが、この本を買いました。田中さんが何を語るのか興味があったからです。

田中均と対談するのはこれまたご存知(?)、田原総一郎。

 

結論から述べると大変面白い本だったと思います。

 

まず、田中均という人は外交官なんだなあ、というかこれが外交官なんだなということが分かります。

その発想の出発点は理念とか原則というよりも、現状の認識、日本という国家からくる制約、相手の国制約、そして何が出来るの、ということの分析であるように思いました。元外交官の外交の授業とかこれまで受けてきましたが、現実に政策を行う人にこういうタイプは多いように思いました。

それを判断した上で何をするのが日本の国益になるのか、ということを考えているように感じました。

要は原理原則先に有りきというわけではないでして、その辺がどうもへんな主張する人たちと異なる部分なのではないかと。そして政策責任者なのであろうと思います。

そして外交において重要なものとして、国際環境が刻々と変化する中、物事を実現するための「機会」を逃しては成らない、ということも強調し、それを見逃さないように常に注意する必要がある、ということを主張しています。

北朝鮮との関係で言えば、韓国と北朝鮮の関係が良い、そして米国が北朝鮮を「悪の枢軸」とか言って、相手にしていない。そこで北朝鮮が日本を向く契機が生まれる。そして、日本と北朝鮮の関係を正常化する「機会」が生まれることになります。

そして田中さんが言うのは外務省の上を無視して総理と2人だけで話した、などということは無い、ということです。日本の官僚機構ではそれはできない、といいうことです。よく考えれば新聞に「総理の一日」とかがあるので、上を無視して秘密裏に行動できるわけ無いですよね。

北朝鮮のミスターXと秘密の交渉をしていた、ということも国内で問題とされていましたが、それは現在未だ日本と北朝鮮は交渉が継続しているので明らかにはできない、とのこと。

そして北朝鮮のような独裁国家と交渉するのに重要なのは、誰が金正日に確実にメッセージを持っていけるかである、とのことです。役職が上だからといってそれが確実にできるとは限らないので、所謂クレディビリティチェックを行う必要がある。少しづつ積み重ねていって、ようやく大きな問題を解決できるようになるということです。この辺は情報公開がなされ、役職と権限がかなり一致している民主主義国とは異なるところですね。

こういうことができようになると、(非公式の)交渉が行われることになります。当然問題は「拉致」です。田中さんは率直に書いていますが、拉致を無視して国交正常化等という事はありません。実際田中さんの交渉のエネルギー多くは拉致を認めさせることと謝罪をさせることにありました。

そうなると難しいのは、拉致をどうやって認めさせるか、ということです。外交は相互主義です。如何に相手が国家犯罪を行っていようとも見返りが無ければ、拉致を認めません。強硬派の人は色々言うみたいですが、これは現実で、政策に責任ある立場にいる者なら、一方的な主張だけして終わるわけに行かない。なので拉致に関する交渉がうまくいくと、北朝鮮にも利益があることを説明しながら交渉を進める必要があります。

制裁とか声高に言う人がいますが、それでは北朝鮮との交渉が決裂してしまいます。責任ある政府が軽々に行ってよいものではないと思います。それに現在ではそうでもなくなりましたが90年代とか制裁の後に可能性のある報復措置にたいして日本が何らかの措置が取れるのか、といえばまるで無防備であった、従ってそもそもの問題として日本の法整備を整える必要がありました。

交渉では拉致被害者の情報提供が最大の問題となました。田中さんもプロの外交官ですから安否確認とかもしようとした。しかし北朝鮮にしてみれば簡単にその情報を明かすわけにいかない。そこで交渉は難航します。北朝鮮は猜疑心が強いのでいったん情報を出せばそれ以降の見返りは無いので無いか、ということを疑うわけです。

田中さんは小泉総理にそのように伝えるのですが(伝えていないわけがありません。北朝鮮に言ったらすぐばれるわけですし)、小泉総理は自分が北朝鮮に行って拉致についての情報が分かり、被害者を救えるならば俺は行く、ということでリスクを承知で北朝鮮に行った、というのが実際のシナリオらしいです。

そして報道ではいきなり小泉訪朝になったかのように伝えられていますが、現実には局長級協議、外相会談が行われてから、というように段階を経て行われているもののようです。

あと、小泉訪朝の説明の際に触れていたのが外交には100%の勝利は無い、ということでした。ですので日朝平壌宣言には拉致という文言は入らなかった、代わりに拉致と明確に解釈できる文言が入ることになりました。拉致という文言に拘って席を立つのは簡単ですが、それでは拉致被害者が救えない、この辺のことを考慮して、宣言の文言は考えられた、ということでした。

 

ということで北朝鮮との交渉の過程の話はさすが当事者、ということで大変リアルで面白いものでした。よりリアルにそのときの過程を知りたい方は本書を読んでみるとよいと思います。世間で言われている田中さんへの批判は多くの場合、当てはまっていないのかな、と思いました。

そのほかに北朝鮮との交渉で重要なのは北朝鮮の言っていることをそのまま鵜呑みして踊らされてはいけないということ、検証を必ず行う必要がある、ということです。北は戦術として何でも言ってくる、そこは見誤って行けない、ということです。

核と拉致の問題について。日本は拉致と核を両方とも解決しなければならないという困難な道を模索しています。そして田中さんは日朝平壌宣言とは拉致と核を同時に解決するための枠組みである、というようなことくを言っていた様に思います。

そうすると拉致は現実に照らして単独で解決することが無理な問題であるということが分かるのではないかと思います。日本として拉致が片付いたら核を無視して国交回復するわけにいかず、来たに援助はできない。従って拉致だけの解決は北にとってメリットが無い、ということになる。そして核の問題は日本というよりアメリカが主要な交渉相手になりますが、アメリカとの交渉が中々難しい。北朝鮮にしてみれば、核を解決しても拉致が解決しないと最も期待できる日本の援助はもらえない。

以上のことからしても拉致と核は同時進行にならざるを得ない、ということになると思います。そしてそのための六カ国協議、ということになると思います。

関心をしたのは、良し悪しは別として、そうした説明が一貫しているところではないかと思います。田中さん批判している人の多くは話が一貫していないです。この本を見まして北朝鮮についての問題が整理されたように思います。

加えて、田中さんが、というか日本の外務官僚が日本人の姓名・財産の安全について大変な責任感を持っている、ということを感じれたことも収穫です。あと、小泉総理への見方も少し変わってきます。

よく「正論」とかそっち系の雑誌ので「日本人を守るのは国家の責任で・・・、制裁を!」とか言ってる人がいます。しかし、なんと言うんでしょうか。これこそ評論家的で、日本人の生命に責任を担っていないからこそ言える台詞で、単に自分の気持ちを満足させるためだけに論を発しているようにしか見えないわけで、言ってることは立派なのですが、どうも中身が空虚のように思います。僕から見たら田中さんのほうが日本人の生命・財産に対する保護する責任をもって行動しているように思います。

制裁が絶対ダメ、というわけではないですが。そのためにいくつかの要件を満たす必要あるでしょう。問題解決が遅い→制裁では、ちょっと困ります。

うーん。北朝鮮だけで話が長くなってしまった。一章分の説明しかしていないのに・・・。近いうちに解説を増補したいです。

兎に角も外交において現場、特に修羅場となっている場所で行われていることを知るのに良い一冊では無いか、と思います。最後に言うのもなんですが、この本は僕のつたない書評(or本の一部紹介)より実際に読んでもらうのが良いと思います。

 

はっ、

来年田中さんの授業を受ける予定の僕ですが、実は田原総一郎とも出身校が同じ。世間の批判をそのままにすれば、仮に僕が外交官になったら「売国外交官」ということ?・・・・・・そんなわけ無いか。っていうかないよね。良識ある(つもりの)保守派のつもりなんです(保守派とかそういうレッテルはあまり意味の無いものですけど)。


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コメント 3

luc

はじめまして。

いま、朝まで生テレビで北朝鮮のテポドン発射のことをやっていて、
たまたま田中均さんのことが一瞬だけ話題になったので、
田中均さんと田原総一郎さんでググりましたところ、こちらに
たどりつきました。

その対談本を私はまだ読んでおりませんが、もふさんが非常に
冷静な記事をここにお書きになり、感心しております。
その本を、一度買って、読んでみようと思います。
by luc (2006-07-08 02:00) 

一言

残念ですが田中均氏がやったのは外交ではありません。
立場も公表できないミスターXと言われている人物は明らかに外交官ではないからです。立場を明らかにできないのは、その人物が工作機関の人物だからです。工作機関の人間は嘘も平気でつきます。外交官がやってはいけないのは嘘をつくことです。田中氏は外交官は時と場合によっては嘘を言ってもいいと言っていますが、それは大間違いです。これは国際常識です。
by 一言 (2006-10-15 01:55) 

湯浅 秀昭

始めまして!興味深く読ませて頂きました。

どうも田中さんに関して興味が持てませんでした。<書くと長くなるので省きます。

この記事を読ませて頂いて、田中さんは拉致被害者の全員解放及び国交正常化へのシナリオをどう描いていたのかが知りたくなりました。
↑恐らく現在も進行中の政策なので書けてないかも知れませんが・・・

また田中さんが北朝鮮の歴史やイデオロギーについてどの程度深く精通しているかも興味が湧きました。

一言さんへ、優秀な外交官も工作員も嘘はつきません。

偏った事実を提示し、相手の頭の中で自分の意図する思考組み立てさせる手法を用います。
by 湯浅 秀昭 (2007-02-17 20:13) 

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